雨間を縫う、白露の梓水 其の参
2017年 09月 10日
―やっぱりコイツでいくか
手に取ったロッドは、ウエダの68でした。
実を言うと、今夏の渇水に入ってからの釣行は殆ど
カミさんのテンリュウの62を拝借して出撃していました。
川幅が狭くなり、遠投の必要性もなくなったコンディションだと、
62のレングスは圧倒的に取り回しが良いのです。
さらにウエダに比べ張りのあるファーストテーパーのブランクは、リアクションバイトを誘う
ハードジャークがビシビシ決まり、シャープなフッキングによりバラシが激減。
先の42㎝を仕留めて後、8月2日のバラシ50UPもこのロッドの恩恵によるものだったのです。
しかし、何か予感がしたのかもしれません。
この日、川に立つ小さき釣り師は、幾多の試練をともに乗り越えてきた
「勇者の剣」を選んだのでした。
シュパッ チョンチョン ガボッ!!
入れたトゥイッチの二回目、煽られたミノーがギラッとヒラを打った刹那
ソレは下から、ドッーンと飛び出してきました。
バイトと同時に反転、流れに戻るその時
それは大きな尾鰭が、バシャッと水面を割り、水しぶきが上がりました。
―ブラウンだな
出方はほぼトップ、エキサイティングなフィッシュオンの瞬間です。
ロッドを通し手に伝わるファーストインパクトは、今までに感じたことのない強大なものでした。
―これはデカイ・・・
追い合わせをきっちり二回入れ、戦いは始まりました。
モンスターはミノーを咥えたまま潜行、底に張りつき動きません。
BIGブラウン特有のパターンです。
静かにリトリーブを始めると、まずはゆっくりと下流に下り始めました。
ドラグテンションを少し緩め、ラインを出しながら次の動きをうかがいます。
すると今度は上流にガンガン溯っていきます。
名竿ウエダのSTSが美しい弧を描き、その強靭なバットパワーが
モンスターのトルクフルな動きを止め、往なします。
寄せては走られ、一進一退の攻防は、リミット5分を過ぎました。
やはり、ロッドを持つ右手が痺れ始めます。
―今回ばかりはバラセない・・・
数多の苦い経験が、ふと脳裏によみがえります。
しかし、蓄積された経験値は、釣り師を大きく成長させるもの(笑)
魚の動きを読み、判断し、冷静に対処する自分がそこにいたのです。
果たして、モンスターの巨大な姿が水面に浮かびあがりました。
―あっ・・・・
スケール感が今まで対峙してきた魚とは全く違います。
と同時にあまりの大きさに、ある種恐怖すら覚えたのでした。
―獲れるのか
ここからが気を抜けません。
ラインは5lbナイロンの直結、ミノーはモンスターにはそぐわない5㎝。
フックサイズは#12のトリプル、太軸とはいえバーブレスです。
強引なやり取りは出来ません。
新調したネットも、全長サイズとほぼ同じ位のモンスターを前に
一撃ですくいあげる事はもはや不可能。これは釣り師の誤算でした。
確実に仕留めるためには、十分に体力を奪わなければなりません。
モンスターがミノーをガップリと咥え込んでいたことは幸運でした。
いよいよ決着の時です。
自らのポジションを下流に取り、ラインテンションを一定に保ちながら
慎重に浅場に誘導していきます。
経験上トリプルのバーブレスは、このタイミング〈釣り師と魚の目が合った瞬間〉に行う
シャローでのヘッドシェイクで、フックアウトするケースがとても多いのです。
今回はその余力すら残さないように、きっちりと封じ込めたのでした。
慎重に、慎重に、流れに乗せながらゆっくりと滑り込ませるようにネットイン!
というか、一度載せて、入れた感じでした(笑)
―よっしゃー! イエスッ イエスッ(なぜか言語混合^^)
普段は冷静な僕ですが(えっ!?)この時ばかりは勝利の雄叫びを上げてしまいました。
感動 歓喜 興奮 陶酔 そして忘我。
鼓動はハイビートを刻み、両の手はわなわなと震えて止まりません。
雨間を縫う、白露の梓水 あるいは驚愕の梓水2017 モンスターブラウン 60㎝
やはり雌の個体でした。
僕の経験では、雄は姿も荒々しく精悍な顔付をし、初期パワーが凄いわりには
意外と諦めが早く、短時間で勝負がつく事が多いのですが(男はやっぱダメですね)
雌は最後の最後まで諦めず、粘り強く、力をふりしぼり戦い抜きます。
子を産み、育て、母となる性は、どの世界においても力強くそして美しいのです。
ネットに横たわる、その美しい姿に見とれることしばし。
我に返り、震える手でメジャーを当てると、60㎝ジャスト!!
遂に念願のリバー"モンスター"ブラウンを、我が手中にしたのです。
長さもさることながら、その太さが際立つ完璧なプロポーションは
産卵を控え、捕食活動が活発化している証。
かくも過酷な戦いを強いられたのが、これで頷けました。
55㎝を手にしてから5年、ひとつの目標であったロクマルモンスターを
記録更新と共に達成することが出来ました。
ダイビングやヘビーシンキングミノー、スプーンなど積極的に魚の領域に攻め込む
バーチカルな釣りを否とし、メインにフローティングミノーを使いながら、増水時や強風下で
補助的にレギュラーシンキングを登場させる。。
言わばサーフェイスゲームに特化したスタイルで、モンスターフィッシュを手にすることは
天・川・人どれが欠けても成し遂げられない、千載一遇の事なのです。
そんな劇的なストーリーの主演女優を、自身の記憶にしっかりと焼き付け
写真に記録し終えると、急に全身の力が抜け、茫然としてしまったのでした。
そして、別れの時が・・・。
めぐり逢うために費やした年月を想えば、共に過ごす至福の時の何と短いことでしょう。
体力を十二分に回復させ、細心の注意と最上級の敬意を払い、優しくリリースを行いました。
その美しく誇り高き梓川の女王は、静かにそして悠然と、梓水の流れに帰っていきました。
これで一つの円が閉じたような気がします。
これからは釣りとの向き合い方も変わるかもしれません。
さらに趣味性を高め、スタイリッシュなジェントルマンの遊びとして
あるいは、梓水の自然を尊び、のんびりゆっくり釣りをしながら、一匹の魚と深く向き合うetc
そんな豊かな時間を、魚達と共有できたなら、それはとても素晴らしい事だと思うのです。
「まだまだデカイの釣るぞー」
腕白なもう一人の自分が、しゃしゃり出てくるかもしれませんけどね(笑)
今回、この素晴らしい魚を育み、忘れえぬ経験を与えてくれた梓川と豊かな自然
そして、関わる人々と事象その全てに、深い感謝の気持ちで一杯です。
この記憶は決して色褪せることなく、僕の心の川を流れ続けることでしょう。
最後に、我が心の梓川が、これからも生きとし生けるもの達の命の川であらん事を願い
感謝とともに、今一度この詩を贈りたいと思います。
ありがとう梓川、ありがとう。
深き槍の峰に源を発し 幽遠の地の谷を越え その水は流れくる
山は青く 紫雲たなびく 皐月晴れ
薫風が渡る 銀色の瀬
滔滔たる梓水 永遠に 永遠に
フォトブック カフェバロの居間心地 四季折々2014 皐月の項より
◎CAFEVALO
手に取ったロッドは、ウエダの68でした。
実を言うと、今夏の渇水に入ってからの釣行は殆ど
カミさんのテンリュウの62を拝借して出撃していました。
川幅が狭くなり、遠投の必要性もなくなったコンディションだと、
62のレングスは圧倒的に取り回しが良いのです。
さらにウエダに比べ張りのあるファーストテーパーのブランクは、リアクションバイトを誘う
ハードジャークがビシビシ決まり、シャープなフッキングによりバラシが激減。
先の42㎝を仕留めて後、8月2日のバラシ50UPもこのロッドの恩恵によるものだったのです。
しかし、何か予感がしたのかもしれません。
この日、川に立つ小さき釣り師は、幾多の試練をともに乗り越えてきた
「勇者の剣」を選んだのでした。
シュパッ チョンチョン ガボッ!!
入れたトゥイッチの二回目、煽られたミノーがギラッとヒラを打った刹那
ソレは下から、ドッーンと飛び出してきました。
バイトと同時に反転、流れに戻るその時
それは大きな尾鰭が、バシャッと水面を割り、水しぶきが上がりました。
―ブラウンだな
出方はほぼトップ、エキサイティングなフィッシュオンの瞬間です。
ロッドを通し手に伝わるファーストインパクトは、今までに感じたことのない強大なものでした。
―これはデカイ・・・
追い合わせをきっちり二回入れ、戦いは始まりました。
モンスターはミノーを咥えたまま潜行、底に張りつき動きません。
BIGブラウン特有のパターンです。
静かにリトリーブを始めると、まずはゆっくりと下流に下り始めました。
ドラグテンションを少し緩め、ラインを出しながら次の動きをうかがいます。
すると今度は上流にガンガン溯っていきます。
名竿ウエダのSTSが美しい弧を描き、その強靭なバットパワーが
モンスターのトルクフルな動きを止め、往なします。
寄せては走られ、一進一退の攻防は、リミット5分を過ぎました。
やはり、ロッドを持つ右手が痺れ始めます。
―今回ばかりはバラセない・・・
数多の苦い経験が、ふと脳裏によみがえります。
しかし、蓄積された経験値は、釣り師を大きく成長させるもの(笑)
魚の動きを読み、判断し、冷静に対処する自分がそこにいたのです。
果たして、モンスターの巨大な姿が水面に浮かびあがりました。
―あっ・・・・
スケール感が今まで対峙してきた魚とは全く違います。
と同時にあまりの大きさに、ある種恐怖すら覚えたのでした。
―獲れるのか
ここからが気を抜けません。
ラインは5lbナイロンの直結、ミノーはモンスターにはそぐわない5㎝。
フックサイズは#12のトリプル、太軸とはいえバーブレスです。
強引なやり取りは出来ません。
新調したネットも、全長サイズとほぼ同じ位のモンスターを前に
一撃ですくいあげる事はもはや不可能。これは釣り師の誤算でした。
確実に仕留めるためには、十分に体力を奪わなければなりません。
モンスターがミノーをガップリと咥え込んでいたことは幸運でした。
いよいよ決着の時です。
自らのポジションを下流に取り、ラインテンションを一定に保ちながら
慎重に浅場に誘導していきます。
経験上トリプルのバーブレスは、このタイミング〈釣り師と魚の目が合った瞬間〉に行う
シャローでのヘッドシェイクで、フックアウトするケースがとても多いのです。
今回はその余力すら残さないように、きっちりと封じ込めたのでした。
慎重に、慎重に、流れに乗せながらゆっくりと滑り込ませるようにネットイン!
というか、一度載せて、入れた感じでした(笑)
―よっしゃー! イエスッ イエスッ(なぜか言語混合^^)
普段は冷静な僕ですが(えっ!?)この時ばかりは勝利の雄叫びを上げてしまいました。
感動 歓喜 興奮 陶酔 そして忘我。
鼓動はハイビートを刻み、両の手はわなわなと震えて止まりません。
雨間を縫う、白露の梓水 あるいは驚愕の梓水2017 モンスターブラウン 60㎝
やはり雌の個体でした。
僕の経験では、雄は姿も荒々しく精悍な顔付をし、初期パワーが凄いわりには
意外と諦めが早く、短時間で勝負がつく事が多いのですが(男はやっぱダメですね)
雌は最後の最後まで諦めず、粘り強く、力をふりしぼり戦い抜きます。
子を産み、育て、母となる性は、どの世界においても力強くそして美しいのです。
ネットに横たわる、その美しい姿に見とれることしばし。
我に返り、震える手でメジャーを当てると、60㎝ジャスト!!
遂に念願のリバー"モンスター"ブラウンを、我が手中にしたのです。
長さもさることながら、その太さが際立つ完璧なプロポーションは
産卵を控え、捕食活動が活発化している証。
かくも過酷な戦いを強いられたのが、これで頷けました。
55㎝を手にしてから5年、ひとつの目標であったロクマルモンスターを
記録更新と共に達成することが出来ました。
ダイビングやヘビーシンキングミノー、スプーンなど積極的に魚の領域に攻め込む
バーチカルな釣りを否とし、メインにフローティングミノーを使いながら、増水時や強風下で
補助的にレギュラーシンキングを登場させる。。
言わばサーフェイスゲームに特化したスタイルで、モンスターフィッシュを手にすることは
天・川・人どれが欠けても成し遂げられない、千載一遇の事なのです。
そんな劇的なストーリーの主演女優を、自身の記憶にしっかりと焼き付け
写真に記録し終えると、急に全身の力が抜け、茫然としてしまったのでした。
そして、別れの時が・・・。
めぐり逢うために費やした年月を想えば、共に過ごす至福の時の何と短いことでしょう。
体力を十二分に回復させ、細心の注意と最上級の敬意を払い、優しくリリースを行いました。
その美しく誇り高き梓川の女王は、静かにそして悠然と、梓水の流れに帰っていきました。
これで一つの円が閉じたような気がします。
これからは釣りとの向き合い方も変わるかもしれません。
さらに趣味性を高め、スタイリッシュなジェントルマンの遊びとして
あるいは、梓水の自然を尊び、のんびりゆっくり釣りをしながら、一匹の魚と深く向き合うetc
そんな豊かな時間を、魚達と共有できたなら、それはとても素晴らしい事だと思うのです。
「まだまだデカイの釣るぞー」
腕白なもう一人の自分が、しゃしゃり出てくるかもしれませんけどね(笑)
今回、この素晴らしい魚を育み、忘れえぬ経験を与えてくれた梓川と豊かな自然
そして、関わる人々と事象その全てに、深い感謝の気持ちで一杯です。
この記憶は決して色褪せることなく、僕の心の川を流れ続けることでしょう。
最後に、我が心の梓川が、これからも生きとし生けるもの達の命の川であらん事を願い
感謝とともに、今一度この詩を贈りたいと思います。
ありがとう梓川、ありがとう。
深き槍の峰に源を発し 幽遠の地の谷を越え その水は流れくる
山は青く 紫雲たなびく 皐月晴れ
薫風が渡る 銀色の瀬
滔滔たる梓水 永遠に 永遠に
フォトブック カフェバロの居間心地 四季折々2014 皐月の項より
◎CAFEVALO
by cafevalo
| 2017-09-10 22:37
| RIVER WIND
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