VOL 11  STAND BY ME  part 2

スベアを手に入れてからというもの、いつも彼と一緒に旅に出た。

早春、残雪の白、芽吹きの緑、青い空のコントラストから始まる日本の四季。
盛夏の信州、夕立から逃げるように駆け抜けたビーナスライン。
初秋の北海道、熊の恐怖に怯え朝までラジオが消せなかった日高の山上湖畔。
日本の原風景を探しに訪れた紅葉の陸奥、津軽・竜飛の岬に咲く波の花に
厳冬の始まりを見た。
沖縄のビーチ、冷えたオリオンビールの横で真っ赤になってお湯を沸かしていたスベア。
遠く海を渡り、カナディアン・ウィルダネス、鮭・鱒達の溯る大河のほとり、
BIGサイズのビーフシチュー缶を重そうに載せて必死で温めていたスベア・・・。

その土地その土地の、新鮮な空気をジェネレーターからいっぱいに吸い込み、
変わらぬ燃焼音と青い炎を燃え上がらせながら、スベアは力強く時に優しく
僕の旅を支えてくれた。

さて、コーヒーでも淹れるか。
ウォーターボトルの水をケトルに入れてスタンバイ。
今日一日の旅を終え、焚火の火を見ながらスベアに火を入れる。
薪がパンッと爆ぜ、火の粉が小さく漆黒の闇に舞う。
ジェネレーター下部の窪みにメタをセットし火を点ける。しばしプレヒート。
「そろそろかな」
バルブをゆっくり開けるとシューとスベアの息づかいが聞こえた。
ジェネレーターが温められガソリンが気化している音である。
燃えさかる焚火から一本の枝を取り、バーナーヘッドに近づけると、
ボッと小さく唸りながら炎を燃え上がらせた。
ボッボボッボッ。
初めのうちは不安定なビートを刻んでいたスベアも
ボディ全体が温まるにつれ気化は更に安定し、音が高音に変化していく。
ゴォーー。
スベアは上機嫌でドライブしているようだ。
青い炎がとても美しい。
夜のしじまに頼もしい燃焼音が響きわたる。
程なくしてケトルが白い湯気を立て始めた。

バルブを閉じると恐ろしいくらいの静寂が訪れた。
チッチッチッ。
ボディの冷却音を聞きながら、ゆっくりとコーヒーを淹れ始める。
それまでさほど気にしていなかった夜の闇と静寂が、スベアのバルブを閉じたその刹那
恐怖という名のマントを広げ僕を包み込んだ。
「・・・本当の夜だな」
温かなコーヒーを一口飲むと、いくらか気持ちも落ちついた。

大自然の中では、人はとても小さく弱い存在である。
焚火とスベアのある「この場所」から一歩森の中に踏み込めば
野生が絶対的な存在としてあり、僕との間には決して侵してはならない境界線がある。
その向こう側、暗い森の奥の世界は、僕がどんなに目を凝らしても
見ることができない領域なのである。
しかし、野生は僕の事をしっかりと見ている。
僕が何か悪さでもしようものなら、牙を剥いて襲いかからんばかりに。
自然とは、野生とは実にそういうものなのだ。
自然はいつでも人間と一定の距離を保とうとする。
そのルールを犯し領域に入り込み傲慢に振るまうのは、いつも人間の方である。

「大自然と対峙する時、人はいつでも謙虚でなければならない。
なぜなら人はそのほんの一部に過ぎないからだ」

スベアと共に超えてきたいくつもの夜が、それを僕に教えてくれた。

「ガサッ!?」
暗い森の奥で何かが動いた様な音がした。
耳を澄まし夜の中に入っていく。
「フゥー」
深く呼吸をして夜の森を体中にいきわたらせる。
パンッパンッ、薪がひときわ大きく爆ぜた。

「もう一杯、飲むか」
気持ちを落ち着かせるようにストレーナーをセットし、お湯を沸かす準備をする。
コーヒーのせいにすればもう少しスベアと話をすることが出来るからだ。
ちょっぴり怖がりの僕は、そんな風にいくつもの夜を超えてきた。
頼もしい燃焼音を聞いていると、僕は心地良い安堵感に包まれ、
夜を愉しむ事が出来たような気がする。
そう、スベアはいつもそばにいて、旅だけでなく、
僕自身をも支えてくれていたのかもしれない。

ここのところ星の下で眠ることもすっかりなくなった。
スベアはギアコンテナの中にしまい込んだままになって久しい。
なるほど彼が不機嫌なのも頷ける。

もう少し秋が深くなったら、一緒に出かけてみるのもいい。
冷たくなってきた空気をジェネレーターからいっぱいに吸い込んで
きっと彼は青く美しい炎の花を咲かせてくれるにちがいない。

燃えるような秋の森の中、久しぶりにゆっくりと話をしよう。
あの頃のように、コーヒーでも飲みながら。

「僕は今、君と初めて出会った信州で、小さな喫茶店をやってるんだ・・・」

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Commented by haraiso21 at 2012-11-05 21:56 x
ご無沙汰です。神奈川にシルバーのカワサキはつれてきましたがゴールドのスベアは宮城においてきました。そんなわけで9月から相模原にいます。かつて巨大ピナクルで知られる元REI(今モンベル)は近いです。ちなみにIKEA港北までは車で40分くらいかな ミートボールにボイルポテトにベリーソースが癖になります。
Commented by cafevalo at 2012-11-06 21:43
haraiso21 様

コメントありがとうございます。
こちらこそご無沙汰しています。
元気でやっていますか?
色々と気にはなっていましたが、連絡出来ず・・・。
そうですか、ちょっと近くなりましたね。
気軽に来れそうな距離なので、機会があれば
ゆっくり会いたいですね。
リンゴンベリーソースのミートボール
食べ過ぎないように^^
by cafevalo | 2012-10-24 22:57 | モノ物語り | Trackback | Comments(2)

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