VOL 9  大地をゆくヒコーキ

今までそれ程関心のなかったものが、急に心に引っ掛かり始め、とても気になり、
よくよく好きになってしまう事がある。
人はそれを“恋に落ちる”と言うのだが、これは何も人に限った事ではなく
モノ事にだって当然当てはまる。
その最たるものが車ではないだろうか。

僕は車が好きな方である。
ただ、車遍歴がスゴイ!とか、旧車好きですっとか、レースに出たり
チューンを楽しむといったようなディープなエンスージアストではなく
車好きのお客様がいらっしゃると話が盛り上がってしまい、つい手が止まってしまう(笑)
その程度だけど・・・。
実を言うと、少し以前スウェーデンの名車「サーブ」の9-3というモデルを
本気で購入しようと考えていた頃があった。
この誇り高き北欧のマイノリティはそもそも軍用の航空機を製造するメーカーが
第二次大戦後の多様化の波に乗るべく選りすぐりのエンジニアを集め、
自動車の製造を目指し生まれた部門であった。
サーブ(SAAB)とはSvenska Aeroplan Aktiebolagetの頭文字をとったもので
スウェーデン航空機会社という意味となる。
このAeroplanをAutomobileとし自動車会社はスタートした。

さて、このサーブ社、量産車で世界初のターボエンジンを使ったり
衝突時、乗員の首を保護するヘッドレストの重要性にいち早く着目し
むち打ち症状を軽減するアクティブヘッドレストを開発。
今でこそポピュラーなシートヒーターやアレルギー対応のエアフィルターなどを
世界に先駆け装備、更に本国で年間6000件以上にものぼる大鹿(エルク)との
上部正面衝突を想定したエルクテストに代表される独自のクラッシュテストを行い
安全性を追求し続けてきた先進技術のパイオニアメーカーなのである。
加えて僕は、この車に北欧デザインの粋と良心そして
「大地をゆくヒコーキ」の勇姿を見出した。

サーブと聞いて真っ先にその姿を思い浮かべるのは'78にデビューした
900ターボではないだろうか。
'80年代、米国ではヤッピー達の成功の証として、我が国では“空”つながりだろうか
航空関係のキャリア志向の女性達にカブリオレタイプが人気を呼んだ。
芸能人のユーザーも多かったと記憶している。サーブユーザーはアッパーミドルクラスのユーザーが多いというサーブ社のデータがあるらしい。
それはさておき「ああ あのバスタブみたいな車ね」
車好きの人であれば即座にそう答えが返って来る。
そうでない人も実車を見れば「これがサーブねぇ、知ってる知ってる」と判るはずである。
それ程この車のデザインは異質であるからだ。
僕自身この900ターボの印象はというと“変な車”であった。
そのスタイルはスカンジナビアの清々しい空気感とはとても隔たりがあるものだと
ずっと感じていたのだ。

その時までは・・・。

この仕事を始める前、地元でサラリーマンをしていた頃勤務先の上司の愛車が
この900ターボだった。
「あえてサーブを選んだのか・・・」その程度にしか思っていなかったのだが
幾度となく実車を見ているうちに何か今までと違う感覚を憶え始めた。
その時は判らなかったが、今にして思うとそれがサーブ流のデザイン力が生み出す
ポジティブな違和感、マン・マシンインターフェースの妙であったのかもしれない。
知らず知らずのうちに僕は森と湖沼を越えて吹き渡るスカンジナビアンブリーズを
五感で感じていたのだろう。
そしてある日、所用で上司ご夫妻と出掛ける事となり妻と二人でこの車に乗る機会に恵まれた。
初めて乗るサーブ、少し興奮気味にリアシートに着座した。
「意外と狭いな、5ナンバーだからか・・」しかし上質なレザーシートは適度な硬さを持ち
身体をあずけられる。ドアを閉めるとカチャ、ブォッという気密性の高そうな音。
ドイツ車のそれとも違う、例えるなら大型のプレハブ冷蔵庫や製氷機のレバーハンドル式ドアを閉めた感じと似ている。厳寒の国の車らしい安心感を感じた。
走り始めると回転の上昇と共にターボが効いていく
「これがサーブの低圧ターボか、けっこう速いな」流石ターボの扱いが上手い。
実はサーブ、ヨーロッパなどではパワーチューンを施し、最速アタックをするような
いわゆる走り屋の車なのだ。
ドライバーエリアに目をやると各種計器類がドライバーを中心として取り囲むように
配置されており航空機のコクピットのようである。
スイッチ類はグローブをしたままでも操作可能なように大きくデザインされている。
厳寒のスウェーデンならではである。
きつく立ち上がったフロントシールド越しの前方視界はとてもクリア
正にプロペラ機の有視界飛行を彷彿とさせる。

「サーブ、なかなかイイじゃん!!」

その日の出来事が僕がサーブに恋をしてしまうきっかけとなったのである。

でも僕は今サーブには乗っていない。所有したいという気持ちも少し落ち着いている。
事実、プラグマティックに考えれば故障やトラブルがとても多く
維持していくのに莫大なコストが掛かるということがあるにはあるのだが
どうも僕はサーブの物質的価値よりも精神的価値に
幸福感を得ていたのではないだろうか。
街でサーブとすれ違うたびに心がときめいた。
雑誌やカタログを見てドライビングしている自分をイメージしてうっとりした。
関連したWebサイトや口コミサイトをくまなく閲覧した。
僕はバーチャルなユーザーとなり共感し、感動した。
空想の中でサーブを所有しドライビングプレジャー、デザインと先進技術そして
Hapinessを享受していた。
僕にとってサーブはそんな車であったのだ。
この頃「この車は僕の人生の何か重要なエレメンツの一つなのではないか」
ふと、そう考える時がある。

いつに日かまた、あの清々しいスカンジナビアの風が
僕の頬をなでることがあるかもしれない。
その時は老練なパイロットとなりこの「大地をゆくヒコーキ」のステアリングを
駆ってみたいと思う。

美しくテイクオフが出来るかどうか、それは、これからの僕の生き方に掛かっている。

「大きくなったら何になりたいの?」 「パイロットぉー」

続きはコーヒーでも飲みながらゆっくりお話いたしましょ。
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by cafevalo | 2012-01-26 13:23 | モノ物語り | Trackback | Comments(0)

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